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民法改正が施行されましたね③(法定利率に関する見直し)

2020.04.15

 熊本本店オフィスの弁護士の石部です。

 世の中、新型コロナで大騒ぎですね。

 我々の業界も、依頼者の方など、いろいろな人と接する仕事ですので、少なからず影響が出ているようです。ただ、まずは、生命、健康が大事ですので、自分が感染しないこと、人にうつさないことを一番に心がけていきたいと思います。

 さて、本日は、「民法改正が施行されましたね」の第3弾として、法定利率についてお話をします。

 

1 法定利率とは何でしょうか

 法定利率は、お金の請求をする場合、例えば、以下のようなケースで、問題になります。

(例①)例えば、AさんがBさんから利息付きお金で借りた場合(利息付貸金契約)

 AB間で利率を決めた場合(約定利率といいます。)は、それが適用されますので、法定利率が使われるのは、約定利率の定めがない場合です。

(例②)交通事故は1つの例となります。例えば、Aさんが交通事故を起こして、Bさんに大けがを負わせてしまいました。裁判になり、Aさんが被害者Bさんに損害賠償金を支払うことになったという場合です。

 このように、約定利率の定めのない金銭債務に遅延損害金が発生する場合があります。それは法定利率によって計算されます。

(例③)例②で、Bさんは、大けががもとで、後遺障害が残ってしまい、満足に働けなくなりました。そのため、後遺障害がなければ将来得られたはずの利益が得られなくなったとして、Aさんに、失った収入分の損害賠償を請求する場合です。

 被害者のBさんは、交通事故に遭っていなければ、本来、毎年毎年、将来にわたって、汗水たらして一生懸命働いてお金を稼ぐしかなかったわけです。ですが、Bさんが、交通事故に遭ったからといって、それと同じ金額を損害賠償金という形で、今現在受け取ってしまうと、Bさんは、そのお金を投資するなどして運用して増やせば、将来働いて受け取っていたはずのお金以上の利益を得ることができてしまいます。それは損害賠償金としては、貰い過ぎになります。

 そこで、公平のため、将来得たであろう収入から運用利益は差し引くということをします。具体的には、今現在受け取ったお金を「法定利率」で運用したと考え、将来受け取るはずだったお金を現在の価値に割り戻して逸失利益を算定します。これを「中間利息の控除」といいます。この割り戻し計算をするときの率もこの「法定利率」で計算されます。

 

2 民法改正で法定利率が年5%→年3%に変更

 改正前の民法(以下「旧民法」と言っていきますね。)では、法定利率は年5%(民事法定利率・旧民法404条)と定められていました。

 なお、商行為によって生じた場合には、商法上、年6%とされていました(商事法定利率・旧商法514条)。

 民事法定利率の年5%は、民法制定当時の市中の金利を前提にしたものです。

 ですが、昨今では、低い市中金利ですので、法定利率が市中金利を大きく上回る状態が続いていました。このため、利息(例①)や遅延損害金(例②)のケースでは、金額が著しく多額となる一方で、中間利息の控除(例③)のケースでは、差し引かれる金額が大きくなるため、逆に、請求できる損害額が不当に抑えられるなど、当事者間の公平を欠くという問題点が指摘されていました。

 そこで、改正後の民法(以下「新民法」といいます。)は、施行時に法定利率を年3%に引き下げる改正を行いました(新法404条2項)。

 

3 新旧民法適用による具体的な違い

 法定利率が年5%から年3%に引き下げられた結果、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。

 例①~例③を、もう少し具体的なケースにして、それぞれみていきましょう。

(1)例①について

 AさんがBさんから利息付きで300万円を借りました。利息付きで2年後に返済する約束だったとします。利率については定めませんでした。

 この場合、返済期限の2年後に、借主Aさんは貸主Bさんにいくら返す必要があるでしょうか。

 これは簡単ですね。元金に利息2年分を上乗せして返すことになります。

 元金の額は300万円ですが、利息の額は、具体的には、

 ア 旧民法の場合、法定利率が年5%ですので、

   300万円×5%×2=30万円(旧法の利息)

   となります。

   元金との合計額は330万円になりますね。

 イ 新民法では、法定利率が年3%の場合

   300万円×3%×2=18万円(新法の利息)

   となります。

   元金との合計額は318万円になります。

 ウ このように、新民法では、返してもらえる利息の金額が少なくなります。

(2)例②について

 裁判の結果、事故の日から2年後に判決が言い渡され、被害者Bさんの損害額が500万円だったとしましょう。

 この場合、Aさんは、被害者Bさんにいくら損害賠償金を支払うことになるでしょうか。

 Aさんは、Bさんに対して、Bさんが被った損害額500万円に、事故の日から2年間に生じた遅延損害金を加えて支払う必要があります。

 この場合、遅延損害金の額は、具体的には、

 ア 旧民法の場合、法定利率が年5%ですので、

   500万円×5%×2=50万円(旧法の遅延損害金)

   本来の損害額との合計は550万円になります。

 イ 新民法では、法定利率が年3%の場合

   500万円×3%×2=30万円(新法の遅延損害金)

   本来の損害額との合計は530万円になります。

 ウ このように、新民法では、支払ってもらえる遅延損害金の額が少なくなります。

   なお、例②では、実は、利息に端数の金額が付くのですが、ここでは捨象します。

(3)例③について

 例②で、Bさんが、Aさんに対し、交通事故による後遺障害により、満足な身体であれば将来得られていたはずの利益が得られずに失った収入分(逸失利益)の損害賠償を請求する場合です。

 被害者Bさんについて、年収を400万円、「後遺障害等級」が12級、「労働能力喪失期間」を10年とします

 ここで「後遺障害等級」とは後遺障害の重さの類型をいい、類型ごとに労働能力がどれくらい喪失したかの割合が定まっています。「労働能力喪失期間」とは、後遺障害によって労働能力を喪失する期間のことです。

 この場合、Bさんが得られる逸失利益の額はどうなるでしょうか。

 ア 旧民法の場合、法定利率が年5%ですので、

   約432万円となり、

 イ 新民法の場合、法定利率が年3%ですので、

   約477万円となります。

 ウ このように、新民法では、控除される(差し引かれる)中間利息の額が少なくなるので、Bさんが得られる逸失利益の額は大きくなります。

 この中間利息の控除が法定利率の割合によることは、旧民法下の判例で認められていたものですが、新民法はこれを明文化しました(民法417条の2)。

(4)新旧民法を適用した場合の違い

 このように、法定利率が年5%から年3%に引き下げられたことで、

 ⅰ 約定利率を定めていない場合、利息及び遅延損害金の額は減少する(例①、例②)

 ⅱ 逸失利益の賠償を請求する場合、その金額は増加する(例③)

  ということで、具体的な計算結果に差が出てくることになります。

 

4 さらに、新民法では、法定利率の緩やかな変動制が導入されました(新404条3項~5項)

  これは、今回の改正で初めて導入されたものです。

(1)旧民法では、前述のように、法定利率を常に年5%とする「固定利率」制を取っていました。

 ですが、市中金利は、長期間にわたり、低い状態で推移しており、法定利率を固定してしまうと、将来、市中金利と大きく乖離することも予想されます。そこで、新民法では、市中金利と連動させて、3年ごとに法定利率を自動的に見直す変動制を導入しました。

 ただ、変動させるのは、前回の変動時と比較して1%以上の変動があった場合のみに限っており、しかも、その場合でも、1%刻みで法定利率が変動します。したがって、法定利率は常に整数になります。

 つまり、法定利率が、市中の金利の変動に合わせて、3%から4%に上がったり、また再び3%に戻ったりというように、緩やかに変動するということです。

(2)このように、法定利率について、変動制がとられますと、上記の例①~例③のようなケースでは、それぞれ具体的にどの時点の法定利率を使って計算するのかという問題が生じます。

 新民法は、この点について、個々の債権が生じた最初の時点における法定利率が適用されるものと規定し、法定利率が後になって変動することはないようにしています(新民法404条1項、419条1項、722条1項・417条の2)。

(3)なお、上記の例①~例③にそれぞれ新民法を適用した場合の説明では、現時点でということで、法定利率は3%を前提に計算しましたが、今後、実際には、法定利率が変動している場合もあり得えますから、注意してください。

 

5 他方、これまで企業との関係で使われてきた商事法定利率は廃止されました(旧商法514条の削除)。

 商事法定利率(年6分)を定めた旧商法は、商行為によって生じた債務であることに着目し、民事法定利率(年5分)に1%を上乗せしていました。

 ですが、新民法が、上記4でみたとおり、法定利率について、緩やかな変動制を採用したことを踏まえ、商行為によって生じた債務を特別扱いする合理的理由に乏しいとの考えから、商事法定利率は廃止されました。

 今後は、商行為によって生じた債務についても、民事法定利率が適用されることになります。商売だから高い金利で取引するということがこれからはなくなることになります。

 

6 経過措置

 以上で、制度の説明は終わりですが、特別サービスの「おまけ」として、具体的なケースにおいて、新旧民法のどちらが適用されるかをお話してみます。余力のある方は読んでみてください。

(1)新民法は、令和2年4月1日に施行されました。したがって、この4月1日以降に生じた出来事については、原則として新民法が適用されます。

 ただ、例えば、施行日の前に契約を締結していた場合に、その契約についても、施行日後は新民法の規定が適用されるとすると、当事者の予測に反しますし、ひいては、社会に混乱を生ずることになりかねません。

 そこで、改正法は、施行日より前に締結された契約や、施行日よりも前に発生した債権債務について、旧民法の規定が適用される場合があるものとしています。これを「経過措置」といいます。

 以下、例①~例③に即して、具体的に説明します。

(2)例①(利息付貸金契約)について

 利息が発生した時点が新旧民法いずれを適用するかの基準時となります(附則15条1項)。

 例①の契約が、例えば、施行日前の2019年4月に締結された場合、返済期限である2年後の2021年4月には新民法が施行済ですが、利息が発生したのは施行日前の2019年4月ですから、旧民法の法定利率(年5%)が適用されます。

 これに対し、例①の契約が、施行日である2020年4月1日以降に締結された場合は、新民法により、利息が発生した当時の法定利率が適用されます(新民法404条1項)。

(2)例②(約定利率の定めのない金銭債務の遅延損害金)について

 遅延損害金ですから、遅滞の責任を負った時点が新旧民法適用の基準時となります(附則17条3項)。

 例②の交通事故が施行日前の2019年4月に発生したとします。この場合、判決言渡しは2年後の2021年4月ですので、新民法が施行済みですが、Aさんが遅滞の責任を負ったのは交通事故の発生した2019年4月(施行日前)ですので、旧民法の法定利率(年5%)が適用されます。そもそも、不法行為に基づく損害賠償債務は、損害発生と同時に支払義務が発生し、遅滞になると判例で定まっています。

 これに対し、例②の交通事故が施行日である2020年4月1日以降に発生したときは、新民法により、遅滞の責任を負った交通事故の時点の法定利率が適用されます(新民法722条1項・419条1項)。

(3)例③(逸失利益の中間利息の控除)について

 中間利息の控除の対象となる損害賠償請求権については、その請求権が生じた時点が新旧民法適用の基準時となります(附則17条2項)。

 例③の交通事故が施行日前の2019年4月に発生し、BさんがAさんに対し、施行日後の2021年4月に損害賠償請求をした場合でも、Bさんの損害賠償請求権が発生したのは、交通事故の発生した2019年4月(施行日前)ですから、旧民法の法定利率(年5%)が適用されます。

 これに対し、例③の交通事故が施行日である2020年4月1日以降に発生したときは、新民法により、損害賠償請求権が発生した時点の法定利率が適用されます(新民法722条1項・417条の2)

 

7 最後に

 今回の法定利率の改正は、明治期に、民法・商法が制定されて以来の、かなり大きな見直しです。

 今まで常識とされてきた「法定利率年5%」「商事法定利率6%」が変わってしまいましたので、この法定利率の変更は、我々法律実務家も、ごっそり頭の中身を入れ替える必要がある民法改正の一つです。

 さて、当事務所では、引き続き、民法改正のお話をこのブログに掲載していく予定ですので、ご期待ください。

 次回をお楽しみに!

 

 弁護士 石部雄一

 

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