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法律コラム:内部通報制度の法改正~報復防止と罰則が大幅強化~

2025.11.21

今回は2025年6月に成立した公益通報者保護法の改正について紹介します。

海外では通報者保護が常識 

欧米では通報者保護制度が広く整備されています。企業や組織内部で不正を発見しても、報復や不利益を恐れて声を上げられないという事態を防ぐためです。

EU2019年の通報者保護指令で、従業員50名以上の事業者に内部・外部通報窓口の設置、報復防止、通報の秘密保持を義務化しています。違反には制裁規定も設けられています。

米国:証券取引委員会(SEC)が運営する制度では、重大な不正を通報した者に金銭報奨を支給。2024年度は約2.5万件の通報があり、総額2億ドルを超える報奨金が支払われました。

英国:既存の通報者保護法(PIDA)を強化する形で独立監督機関「Office of the Whistleblower」の設立が審議されています。制度の一元化と実効性向上を狙いとしています。

海外では「通報者の保護」はコンプライアンスの根幹とされ、制度違反には厳しい罰則が科されています。

日本での改正の経緯

日本では2004年に公益通報者保護法が制定され、2022年の法改正では、大企業に内部通報体制整備義務が課されました。しかし、これまでに通報者の匿名性が守られず、むしろ通報者が処分を受けるケースや、それによって精神的苦痛、家族関係の悪化が起こるなど、通報者に極めて重い負担がかかるケースが生じています。そのため、通報者を保護する内容を盛り込むことが課題となっていました。

2025年改正のポイント

⓵命令・検査・罰則の導入 
企業の内部通報対応責任者(従事者)の未指定や体制整備義務違反に対し、消費者庁長官が命 令・立入検査・報告徴収を行い、違反が是正されなければ企業に最大3,000万円の罰金を科すことが可能になりました。

②通報阻害の禁止
通報者の身元を特定しようとする行為や、「通報しない」旨の合意を強要する行為は無効であり、違反すれば刑事罰の対象となります。

③報復防止の強化
解雇・降格・配置転換などの不利益取り扱いは、通報後1年以内であれば原則「報復」と推定されます。企業側は正当性を立証しない限り責任を免れません。

④保護対象の拡大
従来の従業員等に加え、フリーランスや委託先従業員(契約終了後1年以内も含む)も保護対象に含まれるようになりました。

規模に関わらず対応への準備を

今回の改正では従業員300人以上の企業に制度導入の義務化がされますが、それ以下の規模でも体制整備や対応が不十分な場合、従業員との訴訟に発展する可能性もあります。

また、万が一、不正やハラスメント事案が公になると、企業イメージの毀損や取引停止など経営を打撃する恐れがあります。内部通報制度は不正の早期発見や企業の信頼維持にも結び付くため、適切に準備しておくと安心です。

実務上の準備ポイント

規程の見直し:
通報阻害禁止や報復禁止、フリーランスへの対応など改正内容を反映します。

公益通報対応業務従事者の明確化:
責任者と権限を明記しましょう。

通報経路の整備:
社内での窓口設置が難しい場合、顧問弁護士や外部第三者の活用、他社と共同での窓口設置も有効です。周知・教育:社員や委託先への制度説明など、教育も必要になります。

記録管理:
通報受付から対応完了までの経緯を時系列で保存しておくとさらなるトラブルを避けられます。内部通報体制は法令の遵守のためだけではなく、企業価値を守るためにも重要な仕組みとなります。当事務所では、制度設計や規程改訂、外部通報窓口の受託も行っております。早期に体制を整えておくことで、不正やトラブルの芽を小さいうちに摘み取ることが可能です。お気軽にご相談ください。

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北里綜合法律事務所ニュースレターVol.9